生分解性プラスチックを合成するポリヒドロキシアルカノエート合成酵素の構造解析に成功!

環境中で分解されるプラスチックである生分解性プラスチック。環境への負荷を減らすために広く使われて欲しいのですが、工業的に作り出すにはコストが高いため、なかなかこれまでのプラスチックと置き換わってはいないようです。今回、生分解性プラスチックを生み出す酵素の構造が明らかになったことで、工業化への道が開けると期待されています。

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生分解性プラスチック

普段目にしない日はないといっても過言ではないプラスチック。

主に石油を原料として、小さな単分子(モノマー)をたくさん繋げること(ポリマー化)により合成される。

例えばプラスチックの代表格であるポリエチレン。

ポリというのは多数という意味であり、多数のエチレンが繋がっているため、ポリエチレンという名称がつけられている。

多くの製品に用いられているプラスチックだが、もともと自然界になかったものであるため、環境中に放出されても分解されることはない。

そして大きなプラスチック製品は小さく壊れていき、長期間土壌や水を汚染することがある。

このような問題を解決する一つとして、生分解性プラスチックが登場した。

生分解性プラスチックの由来は石油から生物資源など様々なものがあるが、環境中の微生物で分解されるプラスチックは全て生分解性プラスチックに分類される。

主に使われる成分としては、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリグリコール酸、変性ポリビニルアルコール、カゼインなどがある。

だがこれまでのプラスチックと比べ、価格が上がってしまうため、なかなか工業的に使われることは少ない。

生分解性プラスチックの工業化に向けて

マサチューセッツ工科大学の研究チームは、生分解性プラスチックを合成できる微生物の酵素の構造を明らかにしたと報告した。

生分解性プラスチックの一種であるポリヒドロキシアルカノエートを合成する酵素ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素はほとんど全ての微生物に存在する酵素である。

通常、環境中の栄養が欠乏した時に、炭素を保存するため大きなポリマーを形成するために使われる。

Cupriavidus necatorではこのポリマーはなんと乾燥重量の85%になるほど合成される。

この酵素はポリマー分子の長さを正確にコントロールすることができるため、化学者や化学エンジニアが興味のある酵素の一つとなっている。

研究チームはこの酵素の構造をX線結晶構造解析法により明らかにした。

X線結晶構造解析法

酵素がどのように機能しているかを明らかにするためには、その構造を知ることが重要な鍵となる。

しかしながら、酵素の大きさはナノメートル(10-9メートル)サイズであり、もちろん通常の顕微鏡で見ることはできない。

さらにメカニズムを知るためには、もっと小さなオングストローム(10-10メートル)サイズ、言い換えると原子レベルでの構造を明らかにする必要がある。

このサイズは高価な電子顕微鏡を用いても観察できるレベルではない。

だが現在の科学には、そのオングストロームの大きさを観察する手法がある。

それがX線結晶構造解析法である。

この手法では観察したい物質を結晶化し、強力なX線を照射する。

X線は各原子で散乱し、物質由来のパターンを示す。

このパターンをCCDカメラなどで撮影し、コンピュータで再構成することにより、原子レベルの構造を知ることができる。

X線結晶構造解析の壁

しかしながら酵素のX線結晶構造解析を行うにあたり、大きな壁が存在する。

それは結晶化するというステップだ。

物質を結晶化するには、その物質が溶け込んだ溶液をゆるやかに蒸発させる。

塩などのように水に溶かし、水を蒸発させれば結晶が得られるものと異なり、酵素を含むタンパク質はその条件がとてつもなくシビアである。

タンパク質によっては、数百、数千の条件を検討しても結晶が得られないことも多々ある。

この研究チームも長い年月、ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素の結晶化に取り組んできてやっと結晶が得られ、今回の研究成果に結びついた。

今回のポリヒドロキシアルカノエート合成酵素の構造解析は生分解性プラスチックを工業化するのに重要な研究結果となり、今後遺伝子組み換えなどバイオテクノロジーを用い、より一層工業化へ近づいていくことだろう。

どんな研究開発においても、苦労も困難もあることでしょう。そのなかで何年も成果が出ないということもまれなことではありません。今回紹介したX線結晶構造解析法なんかは、本当に運が左右するような成果が出ない可能性のある実験手法の一つです。もちろんロボットを使い効率化を図ったり、運に左右されないよう新たな手法が開発されたりしています。ですがまだまだ酵素を始めとするタンパク質を結晶化する法則のようなものは見つかっておらず、困難を極めている状況です。

このX線結晶構造解析法は、タンパク質の詳細な構造が分かることから、今回のような工業化に使われる酵素だけではなく、医薬の分野でも盛んに使われています。例えば抗インフルエンザ薬であるタミフルは、インフルエンザのタンパク質の構造解析のデータから作り出された薬です。

医療でも工業でも重要になりつつあるタンパク質の構造ですが、その解析は先ほど述べたように運によるものが大きいのですが、その運に頼らなくてもタンパク質の構造が分かる手法が開発されれば、医療も工業技術も飛躍的に向上することでしょう。バイオの人間として、タンパク質がありとあらゆるところで利用される、そんな社会になると嬉しいなと思っています。

元記事はこちら(A step toward biodegradable plastics. Chemists discover structure of bacterial enzyme that generates useful polymers.)

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