生命体を極限まで簡略化する?!リポソームで包み込んだ遺伝子モジュール群の開発とは?

我々の生活になくてはならない微生物たち。お酒も味噌も、そしてある種の薬も微生物の力を借りて生産しています。その生命の力をさらに拡大しようとしているのが合成生物学という学問です。ですが長い年月をかけて複雑なシステムを構築してきた生物。その改変はなかなか簡単にはいきません。そこでいかに必要なシステムだけ動かすかという研究が進められています。

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合成生物学と生命のシステムの干渉

マサチューセッツ工科大学の研究チームは、人工細胞を一から作る手法の開発を行っている。

現在、合成生物学の研究が進み、微生物や細胞の遺伝子を改変することにより、例えば燃料や薬剤を作り出すなど、新しい機能をもった生命を作り出そうと盛んに研究が行われている。

しかしながら、生物は長い間をかけて、その仕組みを作ってきており、それぞれが洗練された、そして複雑なシステムを構築している。

そのため遺伝子操作により新しい機能を追加したとしても、もともと生命体がもつシステムと干渉してしまい、必ずしも思った通りに動かないことも多々ある。

そこで研究チームはお互いが干渉し合わないよう、新たな機能は生命体から切り離しつつ、さらにお互いがシグナルを交換し、コントロールすることができるシステムの構築を行っている。

脂質の膜で包み込む

研究チームはこの目的を達するため、目的遺伝子をリポソームと呼ばれる物質で包み込むことを発案した。

リポソームとは、脂質により構成される球状の膜であり、生命体の細胞膜と似た物質である。

この中に目的遺伝子とその遺伝子からタンパク質を作り出すのに必要なシステムを組み込むわけだ。

このようにそれぞれの機能を隔離することにより、研究者は異なる機能の人工細胞を並列的に動かし、それぞれがシグナルを送り合い、コントロールすることが可能になる。

つまり一つの人工細胞は一つの仕事だけをして、他の人工細胞では同時に他の仕事をさせることが可能になる。

このシステムが可能になれば、生命活動をモジュール化し、簡単に組み立てられるようになるのだ。

実験による証明

研究チームはこのシステムを実証するため、テオフィリンというカフェインに似た薬剤に反応を示す微生物の遺伝子を使い、実験を行った。

彼らは一つの人工細胞にテオフィリンが存在するとドキシサイクリンという薬剤を放出するよう遺伝子を構築し、もう一つの人工細胞にドキシサイクリンが存在するとルシフェラーゼという緑色の光を出す遺伝子を組み込んだ。

そしてこの二つの人工細胞を混ぜ、テオフィリンを追加すると、緑色の光が観測され、この二つの人工細胞が連動することを証明した。

これまで複雑な調整が必要だった生命体の改変だが、このようにモジュール化し、まるでコンピュータプログラムのように組み立てられるようになれば、これまでよりも効率良く物質変換が行えるようになり、産業的価値が増すことだろう。

微生物を使った物質変換で一つの壁となるのは、その変換効率です。例えばお酒を作る際、酵母が使われますが、酵母は何もアルコールを作るためだけに生きているわけではありません。生命体の一つの大きな使命としては、自分の仲間を増やすこと。つまり子孫を残すことにあります。

酵母は米に含まれる糖からエネルギーを得て、分裂する過程で、アルコールを副産物として合成しているに過ぎないのです。さらにはアルコールを作り過ぎてしまうと、自分自身を殺してしまうなんてこともあります。アルコールが欲しい人間からしてみれば、酵母的には残念ながら子孫を残すという余計なことをしているわけです。

いかに極限まで生命活動をさせずに、糖から得たエネルギーをアルコールに変換するかということが現在の研究の課題になっているわけです。その目的を達成するため、ある研究者は微生物からアルコールを作るのに不要な遺伝子を少しずつ取り除いていく戦略をとり、またある研究者は逆に最低限必要だと思われる遺伝子から、少しずつ追加していくという戦略を取っています。

最終的にどちらの戦略がうまくいくか分かりませんが、研究者によって戦略が異なることは面白いですし、その過程で様々な発見があり、科学の発展に寄与することでしょう。

元記事はこちら(Researchers create synthetic cells to isolate genetic circuits. Encapsulating molecular components in artificial membranes offers more flexibility in designing circuits.)

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