生体分子にケイ素を導入することで活性が顕著に向上!ケイ素と生物の関係性を考察してみる。

炭素とケイ素。性質は似ているはずなのに、何故かケイ素は生命ではほとんど使われていません。この謎は現在、世界中の研究者を魅了し、ケイ素を生命反応に利用すると何が起こるかの検討が進んでいます。今回、SIGでは何故ケイ素が使われていないかを考察してみます。

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有機物質にケイ素を導入する

Calfornia Institute of Technology(Caltech、カルフォルニア工科大学、アメリカ)の研究チームは、指向性進化と呼ばれる手法を用い、酵素にケイ素を導入することにより、シトクロムcという酵素の活性を15倍以上向上させることに成功したと報告した。

Caltechのプレスリリースはこちら

Living organisms have been persuaded to make chemical bonds not found in nature, a finding that may change how medicines and other chemicals are made in the fut...

論文はこちら

まずは研究で用いられた指向性進化とシトクロムcの解説から始めてみよう。

指向性進化

指向性進化とは、人間がある生物を目標をもって進化させる手法の一つである。

似ている例として、抗生物質耐性の微生物が挙げられるだろう。

これは意図して行われたものではないが、人間がカビから抗生物質を発見して以来、世界中でたくさんの抗生物質が医療や畜産、農業で使われてきた。

そのため、現在ではその抗生物質に耐性をもつ微生物が生まれてしまい、医療において問題となっているのは、みなさんもご存知の通りである。

このような変化を人為的に、そして有益な方向で起こすこと、これが指向性進化である。

微生物の場合は、その進化の速度が人間と比べ、格段に速いことから、実験室でこのような進化を人為的に起こすことができる。

例えば、ある物質に耐性をもつ微生物を作りたければ、微生物を培養する培地中にその物質を少し添加し育て、物質の濃度を少しずつ高めていくことで、耐性微生物を得る。

またある酵素の反応を向上させたい場合も、同様に元となる物質の濃度を変化させ、反応後の物質の量を測定し、より活性の高い酵素を得るといった手法が用いられる。

生物から得られる酵素や化学物質は、現在の化学的手法では合成困難なものもあるため、よりその性能を高めるために、また生物自体をさらに有用なものにするために用いられている。

シトクロムc

シトクロムcはミトコンドリアに存在するタンパク質の一種であり、鉄イオンを含んでいる。

生体内ではATP(アデノシン三リン酸)というエネルギー物質が作られるが、その際にはタンパク質間で電子の授受が行われる。

シトクロムcはそのタンパク質間の電子の受け渡しを仲立ちするタンパク質だが、そこに鉄イオンの価数(鉄イオンがもつ電子の個数)の変化が使われる。

クラーク数と生命

さて、考察に入ってみよう。

地球上に存在する生物で主に使われているのは炭素、酸素、窒素、リン、硫黄、水素であろう。

これらの組み合わせにより、アミノ酸や脂質、DNAなどの生体分子は構成されている。

もちろん生体内の反応を円滑に進めるため、他の元素も使われるが、生物が生命体として存在するためには、先の6元素は欠かすことができない。

しかし何故、生物がこの6元素を主に用いているかは、未だ謎となっている。

もしこの6元素が突出して多いとなれば、確率論的に言って十分に理解できることだ。

しかしながらそうではない。

地球上に存在する元素の量を推定したクラーク数というものがある(地球上の元素の量には諸説ある)。

https://ja.wikipedia.org/wiki/クラーク数

このクラーク数によると、地球上で一番多いのは酸素であり、ケイ素、アルミニウム、鉄と続く。

水素は9番目であり、りんは13番目、炭素は14番目、硫黄は15番目、窒素は16番目となる。

ただし原始の地球は高温状態であり、水素は酸素と反応し水となることで保持されており、窒素は現在の大気において、70%を占めるほど多い元素である。

つまり他の元素と比較して、使われやすかった可能性は十分考えられるのではないだろうか。

また元素周期表を見ると、リンと硫黄は窒素と酸素と同じ性質を示すことが読み取れる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/周期表

そのため、リンと硫黄は窒素と酸素の代替物としての利用から始まったのかもしれないと推測できる。

(もちろん現在、リンと硫黄は単なる代替物としての機能ではないことに注意していただきたい)

炭素とケイ素

しかし問題は、炭素である。

炭素において窒素とリン、酸素と硫黄のような関係性にあるケイ素は生物ではほとんど使われていない。

使われているのは、植物やプランクトンの骨格のような特殊な例だけあり、リンや硫黄のように生命活動の中心として使われているものではない。

しかも先ほどのクラーク数では、酸素に次ぐ2番目に多い元素となっている。

生命体として炭素が使いやすかったにせよ、リンや硫黄のように主たる元素として生命活動に使われてもおかしくないだろう。

では何故ケイ素は生命を構成する元素として使われなかったのだろうか?

私はそこには酸化という化学反応が関連しているのではないかと考えている。

酸化

酸化というのは、ごく簡単に言うと、ある元素に酸素が結合することである。

例えば鉄は作った際には綺麗でも、時間が経つにつれ、錆びて赤茶色になってくることをみなさんも経験したことがあるだろう。

あれは鉄に空気中の酸素がつき、酸化鉄という状態になったためであり、これが酸化の代表例と言えよう。

こういった酸素と結合した状態のことを、酸化物といい、酸素は反応性が高いことから、地球上の元素は酸化物の状態で存在していることが多いと推測される。

先ほどの炭素、窒素、酸素、リン、硫黄、そしてケイ素の酸化物を見てみよう。

炭素は二酸化炭素、酸素はそのまま酸素、窒素は一酸化窒素、二酸化窒素など複数の形を取り、リンは五酸化二リン、硫黄は一酸化硫黄、二酸化硫黄、三酸化硫黄など複数の形を取り、そしてケイ素は二酸化ケイ素(シリカ)である、

この中で一つだけ、仲間外れのものが存在する。

それが二酸化ケイ素である。

何故なら二酸化ケイ素だけは鉱物であり、ほとんど水に溶けることはない。

例えばガラスは二酸化ケイ素よりできているが、ガラスに水が溶けることはなだろう。

つまり酸化した物質の中で、ケイ素は他のものより圧倒的に安定で、水の中にほとんど存在しないと考えられる。

原始の地球で生命が始めて誕生したのは、水の中であると言われ、初期の生物は水の中で進化してきた。

そのため、他の元素と比べ、極端に使われる機会が少なかったと推測すると、現在の生物の構成要素として使われてこなかったということは十分に考えられるのではないだろうか?

もしかしたら研究業界で同様に考えられているかもしれないし、全く違っているかもしれないが、どのように生物が進化してきたかを考えることはなかかな面白いことである。

また今回の研究により、ケイ素を生物に導入することにより、より効果の高い生体物質を得ることができたと報告された。

このことはまだ生物は飛躍的に進化できる可能性を示唆しており、今後、さらに研究が進むことにより、どのような生物が作られていくのか、大変興味深いことである。