ジャンクDNAは”ジャンク”ではない?!大規模遺伝子解析が切り開く新しいがん治療のターゲットとは?

ゲノム編集で有名となっとCRISPR。この技術を応用して、ジャンクDNAの機能を明らかにしようという研究が進められています。そしてその研究が明らかにしたものは、これまでの細胞生物学では考えられないような結果でした。しかもそれは新しいがん治療につながる可能性を示唆しているものでした。

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ジャンクDNAの意味

カルフォルニア大学サンフランシスコ校とスタンフォード大学の共同研究チームは、ジャンクDNAと呼ばれる一見何の役割も果たしていないように見える遺伝子の領域がガン治療のターゲットとして利用できるかもしれないことを報告した。

ヒトのゲノムは約30億塩基対、つまりDNAが30億個並んで形成されている。

そのゲノムからRNAと呼ばれる短い遺伝子に写し取られて、その後タンパク質が作られ、タンパク質が機能を発揮することでヒトを形作っていると言われている。

しかしながらゲノムの中には、タンパク質を作り出さない領域も存在する。

この領域はNon-coding region(翻訳されない領域)と呼ばれ、長い間機能的に意味のない領域であると考えられてきた。

そのため、ジャンクDNAという呼ばれ方もしていた。

しかしながら近年、このNon-coding regionは細胞生物学において、分化や病気の原因となる重要な領域であることが知られるようになった。

それでもなかなか研究は進まず、多くの領域においてはまだ謎が残されたままである。

CRISPER-based interference

研究チームはnon-coading regionの中でも、RNAに写し取られるが、タンパク質を作り出さないlong non-coding RNAs(lncRNAs)に注目し、この領域の機能を大規模に解析できる手法を考案した。

その技術はゲノム編集で脚光を浴びているCRISPRをベースとしたCRISPR-based interferenceという技術である。

この技術を用いると特定の遺伝子の活性を正確に調整することができる。

そしてカルフォルニア大学サンフランシスコ校の研究チームは7種類のヒトの細胞株と6種類のがん細胞、そして一つの人工多能性幹細胞株(様々な細胞になる可能性をもった細胞株)を用い、16,401のlncRNAをそれぞれ不活性化し、その機能を検討した。

またスタンフォード大学の研究チームは、5,000のlncRNAを活性化し、機能の検討を行なった。

その結果、499個のlncRNAが細胞の増殖に影響を与えることが明らかとなった。

ある細胞には必須だけど、他には影響なし?

研究チームは最初細胞の生存に必須なlncRNAのセットを探索したが、そのようなlncRNAのセットは見つからなかった。

しかしながら、驚くべきことに89%のlncRNAsは一つの細胞株においては必須であるが、他の細胞株には何の影響を及ぼさないという事実が明らかになった。

通常、タンパク質をコードしている遺伝子は、一つの細胞株だけではなく、他の細胞株に於いても影響が見られることが多い。

しかしながら、lncRNAsは細胞ごとに特異性をもっているというこれまででは考えられない結果が得られたのだ。

つまりはがん細胞に必須のlncRNAsを薬剤のターゲットにできれば、正確にがん細胞だけ狙い撃ちできる可能性が示唆されたのである。

これまでがんの治療薬では正常の細胞にも影響を与えてしまい、強い副作用を示すものが多かったが、がん細胞に特有な性質をターゲットにできれば、新しいがんの治療薬の開発につながるかもしれない。

CRISPRに関しては、詳しい中身は分からなくても、聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。ゲノム編集という新しい遺伝子操作で使われる技術なのですが、これまでの遺伝子操作とは異なり、目的の遺伝子をピンポイントで狙える技術であり、これまでにも海外で遺伝子疾患の治療で成果が報告されている新しい技術です。

その新しい技術を用い、生命の謎に迫ろうとしたのが今回の研究です。ヒトのゲノムは2003年に全て読まれましたが、まだまだ分からないことが沢山あります。その中から作られるタンパク質やRNAの機能、そして今回のジャンクDNAと呼ばれる領域に関しては現在でも世界中で解析が進んでいる分野です。

ほんの20年前にはジャンクDNAは全く意味がない、ランダムな配列を沢山入れることで、紫外線で重要な遺伝子が壊される確率を下げていると言われていました。ここにきて実はその領域が重要で、そして繊細な働きをしていることが明らかになりつつあり、私自身もとても驚いています。

このように少し前に出されていた定説が、新しい発見により覆されるのは科学の面白さです。今回はさらにがん治療にも役立てられるかもしれないという重要な結果が報告され、今後の研究の進展が興味深いなと思います。

元記事はこちら(CRISPR Study Reveals Unexpected Roles of Non-Coding RNAs. High-Throughput Screening Platform Finds that Distinct Non-Coding RNAs are Essential to the Growth of Different Cancer Cell Types)

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