遺伝子サイレイシングによりコレステロールを減少させる!新しい薬が患者に負担の少ない治療を切り開く!

バイオ研究で用いられている新しい技術、遺伝子サイレイシング。研究の枠を飛び出し、医療にも使おうと研究が進められています。その一つのターゲットがコレステロール。たった数回の投与によって、大きな治療効果を生み出す可能性があると注目されています。

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遺伝子サイレイシング

現在のバイオ研究では、遺伝子をかなり高度なレベルで扱えるようになってきた。

プラスミドと呼ばれる小さな円形の遺伝子を生物に組み込み、新しい機能を追加するということやゲノムを自由自在に書き換えるゲノム編集もその一つだ。

そしてもう一つバイオ研究に無くてはならない技術として、遺伝子サイレンシングという技術がある。

これはRNAi(RNA interference)、日本語ではRNA干渉と呼ばれる現象を用い、遺伝子を細胞に導入するという比較的簡単な技術だけで、遺伝子を機能させなくする技術である。

遺伝子サイレイシングの原理:RNAi

生物の情報は、ゲノムと呼ばれるたくさんの遺伝子がひとまとめにされた状態で細胞内に保存されている。

それを構成している物質はDNA(核酸)と呼ばれる物質である。

そしてゲノムの中のある遺伝子が必要となった場合、ゲノム上からその場所のみ情報がコピーされる。

しかし、コピーされた情報はDNAにより構成されているのではなく、RNAというDNAとはほんの少し異なる物質で構成される。

その後、RNAを鋳型として、タンパク質が作られ、細胞内で機能を発揮する。

しかしもしそのタンパク質の機能を知りたい、もしくは細胞に害があるためにタンパク質を作らせたくないとしたら、どうしたらいいだろうか。

一つはゲノム上からその遺伝子を抜き取ってしまうということだ。

そしてもう一つは、RNAからタンパク質を作らせないという方法である。

それがRNAiである。

タンパク質を作らせたくないRNAの一部を細胞の中に入れてやると、細胞の中で作られたRNAと結合し、分解させるように働く。

RNAが分解されてしまうと、タンパク質が作られず、そのタンパク質による機能は失われる。

このような手法のことを遺伝子サイレイシングと呼んでいる。

そして現在、この遺伝子サイレイシングを医療に生かそうと研究が進められている。

遺伝子サイレイシングでコレステロールを減少させる!?

インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究チームは、遺伝子サイレイシング技術を使い、LDLコレステロール値を減少させようと研究を進めている。

LDL(low-density lipoprotein:低比重リポタンパク質)コレステロールとは悪玉コレステロールとも呼ばれ、肝臓で作られたコレステロールを各臓器に運ぶ役割をしているコレステロールである。

しかし細胞に取り込まれる以上にコレステロールが作られてしまうと、LDLコレステロールは血液中にコレステロールを血管内に放出し、動脈硬化や脳梗塞、脳卒中、心筋梗塞など循環器疾患を引き起こす原因となる。

現在、血液中のコレステロール値が高い、高コレステロール血症ではスタチンと呼ばれる血中のコレステロールを低下させる薬剤と運動療法、食事療法などを組み合わせ、治療を行う。

スタチンを用いた治療のデメリット

しかしスタチンには副作用があり、腹痛、発疹、倦怠感、重いものでは末梢神経障害、肝機能障害などを引き起こすことがある。

そのため多くの患者においては、高容量のスタチンを処方するということが困難な場合がある。

また定期的に服用する必要があり、服用を忘れたり、不定期に服用するということがあると、期待される効果が達成できないことがある。

またある患者においては、高容量のスタチンを処方したとしても、コレステロール値が十分に低下しないこともある。

LDL受容体分解促進タンパク質:PCSK9

そこで彼らが研究しており、現在治験が進んでいる薬剤がinclisiranというRNAi薬剤である。

これはPCSK9(プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)と呼ばれるLDL受容体分解促進タンパク質をターゲットとした薬剤だ。

PCSK9は細胞の表面にあるLDL受容体の分解を促進する働きを担っている。

つまりこのタンパク質は細胞のLDLコレステロールを取り込むための入り口を壊してしまうのである。

そこでこのタンパク質の機能を阻害してやることで、LDLコレステロールが細胞に取り込まれやすくし、血中のLDLコレステロールを下げ、循環器疾患のリスクを下げようというものである。

inclisiranはこのPCSK9のRNAと結合するようなRNAを化学物質で修飾し、細胞に取り込ませやすくするとともに、長時間作用するようデザインされている。

たった二回の投与で効果がある?!

今回の研究では、高コレステロール血症で、特に循環器疾患のリスクが高い497人の患者に、様々な用量においてincilisiranを投与した。

またその中で73%の人はこれまでにスタチンを用いた治療を受けたことがある人であり、31人が他の高コレステロール血症の薬剤であるezetimibe(エゼチミブ)を用いた治療を受けたことがある人だった。

incilisiranの投与においては、投与回数が1回、または1回目の3ヶ月後に再度投与し、検討を行った。

そして最初の投与後から8ヶ月間定期的に血中コレステロールと副作用の検査を行った。

その結果、最初の投与から1ヶ月後において、incilisiranが投与された患者においては、LDLコレステロールの値が51%まで低下していた。

1回投与の患者ににおいては、投与後6ヶ月後の時点でコレステロール値が42%まで低下していた。

投与しなかった患者においては2%上昇していたことから、薬の効果があったと考えられる。

また2回投与の患者においては、投与後6ヶ月後の時点で血中コレステロールの値が52%まで減少しており、さらに患者のうち48%の人は目標値(50 mL/dL)まで低下していた。

これまでスタチンの治療では頻繁に服用しなければいけなかったのだが、たった2回、しかも1回目と2回目の投薬は3ヶ月も開けるという患者にとって負担の少ない治療スケジュールで、劇的な効果が得られたわけである。

現在、アメリカにおいて治験のフェーズ2まで進んでいるとのことだが、現在までに大きな副作用は見られなかったと報告されている。

この遺伝子サイレイシングを用いた治療法が、高コレステロール血症の治療に新たな光となることが期待される。

病気になり、薬を服用していて思うのは、なんでこんなに頻繁に飲まなきゃいけないんだろうということですよね。そして体調がちょっと良くなってきたら、何となく飲むのを忘れてしまうなんて経験をしたことがある人は、私だけではないでしょう。

しかし薬によっては飲み続けないと効果が得られないものや、抗生物質のように耐性菌を生み出してしまうものなど、意外と後々になって大きな影響を及ぼすものも少なくありません。しかし薬の用量や服用回数、服用期間は、これだけ投与すればそのような危険性がないように定められています。処方された薬はしっかりと飲みきるのが安心につながるわけです。

とはいっても、薬を飲む回数が減れば、それだけ管理が楽になるのも事実。そしてそうなってほしいと願っている方は少なくないでしょう。今回、遺伝子サイレイシングという技術が、コレステロールをターゲットに2回の投薬のみで、劇的な効果があると報告されたのは、まさに待ち望んでいた治療なのかもしれません。

今後、生活習慣病のような慢性疾患に対し、鍵となるタンパク質が見つかることによって、今回の技術が適応されていくことだと考えられます。いつの日か多くの病気に対し、簡単な治療で長期間安心して暮らせる世の中になるといいなと思いつつ、今回の研究は意外とその世界ができるのは遠くないのではないかと思わせる研究だと感じました。

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